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東京地方裁判所 平成2年(ワ)11085号 判決 1993年1月29日

東京都稲城市矢野口一二一九番地

原告

川辺農研産業株式会社

右代表者代表取締役

川辺久男

右訴訟代理人弁護士

及川昭二

右輔佐人弁理士

新関和郎

北海道河東郡音更町字然別北六線西四三番地

畠山技研工業こと

被告

畠山孝一

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

封﨑俊一

増岡研介

右輔佐人弁理士

早川政名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、別紙目録(二)記載のトレンチャー(以下「被告商品」という。)を製造販売してはならない。

2  被告は、その本店・工場及び営業所に存する被告商品を廃棄し、その製造に必要な金型を除却せよ。

3  被告は、原告に対し、金一億円及びこれに対する訴状送達の日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  3項につき仮執行宣言

二  被告

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1(一)  原告は、農業用諸機械の設計及び販売、建設用機械の設計、製作及び販売並びにこれらに付帯する一切の業務を目的とする株式会社である。

(二)  被告は、昭和六一年八月頃から、肩書地において畠山技研工業という商号で農業用機械の製作、販売、修理等の業を営んでいるものである。

2(一)  原告は、昭和五三年以来現在まで、別紙目録(一)記載のトレンチャー(以下「原告商品」という。)を製造販売している。

(二)  原告商品は、以下の構成態様を有し、独創的で他に類例を見ない形態であって、特異性が顕著である。

(1) 基本的な構成態様

前端側に具備する取付マストによりトラクタの車体の後方に装脱自在に組み付けるトラクタ連結装着型の機体Aと、その機体Aに支架される溝掘削体組付用の支持フレームBと、その支持フレームBに組み付けた無端鎖式の溝掘削体Cとよりなる。

機体Aは、ギヤボックスとこれを囲う箱状体とその箱状体の前側面に設ける取付マストと、箱状体の両面側から左右に突出する左駆動軸と箱状体の上面に突設した油圧シリンダ等よりなる。

溝掘削体組付用の支持フレームBは、機体Aの後方で前記駆動軸に平行して配された左右に張り出す支持アームと、前記駆動軸に前端側を嵌合した回動アームとよりなり、機体Aの上面側に設けた油圧シリンダの下端と連結させている。

無端鎖式の溝掘削体Cは、略三角形状に枠組みしたブームの外周側に、スプロケットを介して、掘削刃付きの無端チェンを巻きかけてなり、機体Aに左右に張り出すようにした支持フレームBの左右の外端部に支架することで、左右に一対に対称するように設けている。

(2) 具体的な構成態様

機体Aにあっては、箱状体を横長直方体状に形成し、その内側にギヤボックスを入力軸が前方に突出するよう設け、箱状体の前面側に、前面視で略八字状を呈する三点ヒッチ式の取付マストと左右に一対に並列する支脚とを組み付けている。

無端鎖式の溝掘削体支架用の支持フレームBは、前記機体Aの駆動軸と平行する支持アームが、その駆動軸を支点として上下に回動する回動アームに支持されて機体Aに支持せしめてある。

無端鎖式の溝掘削体Cは、略三角形状に枠組みしたブームの外周側で三つの角部をそれぞれ外側に延設して、その端部にスプロケットを軸支すると共に、下辺側の前後の中間部位に前後に並ぶよう二つのスプロケットを軸支し(前方のスプロケットはテンションスプロケット、後方のスプロケットはアイドラスプロケット)、これらの五つのスプロケットの外周に、掘削刃を具備する無端チェンを巻きかけて、側面視において三角形に近似の不等辺多角形をなす形状に張架している。そして、それのブームを、機体Aに支架した支持フレームBの左右の外端部にそれぞれ連結し、ブームの三つの角部のうちの前端側に位置する角部に設けたスプロケットを機体Aから左右に張り出す駆動軸のそれぞれの外端部に嵌着して、左右に並列するよう装架している。

(三)  被告は、原告が原告商品である別紙目録(一)記載の形態をしたトレンチャーを販売していない旨主張するが、右トレンチャーの形態は、原告商品の基本的形態であり、原告商品を利用する地方の諸事情、土質条件、栽培条件、作物の種類等によって付属品たるチェーンカバー、補助カバー、鎮圧輪、重錘のせ台、定規輪、駆動軸カバーを取り付けるのである。

したがって、別紙目録(一)記載の形態をしたトレンチャーが深耕作業をするものであって、原告は、原告商品である別紙目録(一)記載の形態をしたトレンチャーを完成品として販売しているのである。

3(一)  原告は、昭和五三年の発売開始以来昭和六一年八月頃までに、原告商品を全国的に約一万台販売しており、この販売数量は、当業界国内市場の約八〇%のシェアを占めるものである。

(二)  原告は、右のとおりの原告商品の大量販売に先行し又は併行し現在まで、各雑誌、業界新聞等のマスコミ媒体を意欲的、積極的かつ継続的に利用し、全国的範囲に及ぶ宣伝広告に努力してきた。このことは、甲第七号証ないし甲第八〇号証の業界新聞や雑誌、カタログの存在からも裏付けられる。更に、原告が昭和四九年八月から平成二年七月までの間に支出した宣伝広告費は、五億一一七二万九〇〇〇円に及んでいる。

(三)  原告は、トレンチャー製品では我が国唯一の総合メーカーとして認められており、原告商品に対する取引者、需要者の注目度が一段と高く、原告商品自体に「カワベ」の商標が付されていることとあいまって、取引者、需要者は、原告商品を見る度に原告の存在を想起することとなる。

(四)  以上により、原告商品の形態は、遅くとも昭和六一年八月頃には、取引者、需要者間において、原告が製造販売する営農用トレンチャーの表示として全国的に周知となっていた。

4(一)  被告は、昭和六一年八月頃から、被告商品を製造販売している。

(二)  被告商品は、以下の形態を有している。

(1) 基本的な構成態様

前端側に具備する取付マストによりトラクタの車体の後方に装脱自在に組み付けるトラクタ連結装着型の機体A'と、その機体A'に支架せる溝掘削体組付用の支持フレームB'と、その支持フレームB'に組み付けた無端鎖式の溝掘削体C'とよりなる。

機体A'は、ギヤボックスとこれを囲う箱状体とその箱状体の前側面に設けた取付マストと、箱状体の両面側から左右に突出する駆動軸と箱状体の上面に突設した油圧シリンダよりなる。

溝掘削体組付用の支持フレームB'は、機体の後方で前記駆動軸に平行して配された左右に張り出す支持アームと、前記駆動軸に前端側を嵌合した回動アームとよりなり、機体A'の上面側に設けた油圧シリンダの下端と連結させてある。

無端鎖式の溝掘削体C'は、略三角形状に枠組みしたブームの外周側に、スプロケットを介して、掘削刃付きの無端チェンを巻きかけてなり、機体A'に左右に張り出すように設けた支持フレームB'の左右の外端部に支架することで、左右に一対に対称するように設けている。

(2) 具体的な構成態様

機体A'にあっては、箱状体は横長直方体状に形成し、それの内側にギヤボックスを入力軸が前方に突出するように設け、箱状体の前面側に、左右に長い取付秤を介して、前面視で略八字状を呈する三点ヒッチ式の取付マストと左右に一対に並列する支脚とを設けている。

無端鎖式の溝掘削体支架用の支持フレームB'は、前記機体A'の駆動軸と平行する支持アームが、その駆動軸を支点として上下に回動する回動アームに支持されて機体A'に組み付けてある。

無端鎖式の溝掘削体C'は、略三角形状に枠組みしたブームの外周側で、三つの角部をそれぞれ外側に延設して、その端部にスプロケットを軸支すると共に、下辺側の前後の中間部位に前後に並ぶよう二つのスプロケットを軸支し(前方のスプロケットはテンションスプロケット、後方のスプロケットはアイドラスプロケット)、これらの五つのスプロケットの外周に、掘削刃を具備する無端チェンを巻きかけて、側面視において三角形に近似の不等辺多角形をなす形状に張架している。そして、それのブームを、機体A'に支架した支持フレームB'の左右の外端部にそれぞれ連結し、ブームの三つの角部のうちの前端側に位置する角部に設けたスプロケットを機体A'から左右に張り出す駆動軸のそれぞれの外端部に嵌着して、左右に並列するよう装架している。

5  原告商品の形態と被告商品の形態とを対比すると、以下のとおりであって、被告商品は、原告商品と全く同一といえるほど酷似している。

(一) 原告商品の形態と被告商品の形態との共通点

(1) 基本的な構成態様において、構成主要部が、前端に取付マストを設けてトラクタ連結装着型とした機体と、支持フレームと、無端鎖式の溝掘削体と、その他の付属品とよりなる点、機体を囲い込んだ四角な箱状体に形成し、それの前端側に取付マストを設け、左右に駆動軸が張り出す形状とした点、機体に前記駆動軸と平行して左右に張り出す支持アームを設けた点、この支持アームの左右の両端部に、三角形に近似の不等辺多角形を呈するように無端チェンを張設した無端鎖式の溝掘削体を支架している点。

(2) 具体的な構成態様において、無端鎖式の溝掘削体の掘削チェーンを、略三角形状に枠組みしたブームの外周に、五つのスプロケットを配設して、略三角形をなす不等辺三角形に張架している点。

(二) 原告商品の形態と被告商品の形態との差異点

(1) 無端鎖式の溝掘削体のブームの枠組みのうち、腕木の形状について、原告商品は、底辺と斜辺の各中間部位を結んでいるのに対し、被告商品では斜辺と角部とを結ぶ形状である点。

(2) 機体の前端の支脚取付杆について、原告商品では、取付マストの前面に支脚取付杵を設けて、これに支脚を左右に並列させているのに対し、被告商品では、機体の前端面に左右に長い支脚取付杆を設けてこれに取付マストの下端側と左右に一対の支脚を設けている点。

(三) 原告商品の形態の要部

(1) 機体の前端側に設ける三点ヒッチ式の取付マスト及びギヤボックスを囲い込む箱状体の態様は、トラクタ連結装着型の機体において普通に用いられる態様である。

(2) これらの点に基づいて原告商品の構成態様をみれば、溝掘削体の無端チェンを三角形に近似の不等辺多角形にした態様が、従来にない特異な態様を構成していることから、この点を中心とした構成態様が原告商品の形態の要部である。そして、この無端チェンを三角形に近似の不等辺多角形にした特異な態様が、原告商品を特有の商品表示形態としているのである。

(四) 原告商品の形態と被告商品の形態との類否

(1) 原告商品の形態と被告商品の形態の共通点と差異点とを比較検討すると、両者の共通点は、原告商品の形態の要部に係り、その共通性は顕著である。これに対し、両者の差異点は、類否判断の要素として弱いものである。

(2) そうすると、原告商品の形態と被告商品の形態の共通点は、原告商品の形態の要部であって世人の間に原告商品の形態の特徴として認識されているものであるから、その共通性は顕著である。一方、両者間にある差異は、共通する各部分品の僅かづつの変化によるもので、微細な部分的差異であって、共通性を超えるものではない。したがって、被告商品の形態は、原告商品の形態に類似するものである。

6  被告商品は、原告商品と酷似しているから、取引者、需要者において、原告商品と誤認混同するおそれが大きく、そのため、原告は、被告による被告商品の製造販売によって営業上の利益を害されるおそれがある。

7  被告の前記4(一)の行為は、故意又は過失に基づくものであるから、被告は、被告の右行為によって原告の被った一切の損害を賠償する義務を負うべきである。

被告は、昭和六一年から平成二年までの間に、被告商品である一畦用チェーントレンチャ-TST-一一〇〇型、TST-一二〇一型(販売価格六一万五〇〇〇円)を一三〇台、二畦用チェーントレンチャ-TST-一一〇二型、TST-一二〇二型(販売価格九一万円)を三六〇台、三畦用チェーントレンチャ-TST-一二〇三s型(販売価格一二六万円)を七五台、四畦用チェーントレンチャ-TST-S一二四四型(販売価格一六八万円)を一二五台販売したところ、その荒利益率は四〇%であるから、被告が被告商品を販売して得た荒利益は、合計二億八四七七万二〇〇〇円であり、右同額が原告の被った損害と推定される。

8  よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法一条一項一号の規定に基づき被告商品の製造販売の差止め、在庫品の廃棄、その製造に必要な金型の除却、並びに、同法一条ノ二第一項の規定に基づき右二億八四七七万二〇〇〇円の内金一億円及びこれに対する訴状送達の日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1(一)は知らない。(二)のうち、被告の営業開始が昭和六一年八月頃である点を否認し、その余は認める。被告の営業開始は、昭和五〇年である。

2(一)  同2(一)のうち、原告商品が別紙目録(一)記載のとおりであることは否認する。

原告が主張するようなチェーン式トレンチャーがこのような形態で販売されることはほとんどあり得ない。このことは、チェーンカバーも安全ガード(安全のためにチェーンの外側に取り付けるフレーム)もなしに使用することの危険性を考えただけですぐに判ることである。現に、原告が書証として提出した原告の製品の広告中にも、原告が主張するような形態のチェーン式トレンチャーは存在しない。

(二)  同2(二)の頭書の原告商品の外観形態に特異性があるとの点は争い、(1)、(2)は否認する。

仮に、原告主張のとおり別紙目録(一)記載の形態が原告商品であるとしても、昭和四八年ないし同五五年頃には、右形態と同様の外観形態を有する商品が数多くの他社ブランドで販売されていたのであるから、原告主張の外観形態は、同種商品から見て特徴的なものではないのであって、原告の商品たることを示す表示ということはできない。

3(一)  同3(一)及び(二)は知らない。

(二)  同3(三)は争う。

なお、別紙目録(一)の図1及び図2を見る限り、原告主張の原告商品には「カワベ」の商標は付されていない。

(三)  同3(四)は争う。

4  同4のうち、別紙目録(二)記載の形態のものが被告が製造販売する商品の一部であることは認め、その余は否認する。

被告は、別紙目録(二)記載の形態のものを被告の商品として販売していない。被告が製造販売する商品の形態は、乙第二号証(別紙目録(三))のとおりである。

5  同5は否認する。

6  同6のうち、誤認混同するおそれがある点は否認し、営業上の利益を害される点は知らない。

7  同7のうち、被告が得た荒利益の点について否認し、被告が損害賠償義務を負うとの点は争う。

8  同8は争う。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  まず、原告が原告商品である別紙目録(一)記載のトレンチャーを製造販売しているとの点について検討する。

本件全証拠によっても、原告が別紙目録(一)記載の形態のトレンチャーを昭和五三年以降原告の商品として宣伝広告し、かつ販売していたと認めることができない。

原告は、別紙目録(一)記載のトレンチャーの形態は、原告商品の基本的形態であり、原告商品を利用する地方の諸事情、土質条件、栽培条件、作物の種類等によって付属品たるチェーンカバー、補助カバー、鎮圧輪、重錘のせ台、定規輪、駆動軸カバーを取り付けるのであり、したがって、別紙目録(一)記載の形態をしたトレンチャーが深耕作業をするものであって、原告は、別紙目録(一)記載の形態をしたトレンチャーを完成品として販売しているのである旨主張する。

しかし、成立に争いのない甲第七号証ないし甲第八〇号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証及び乙第四号証によれば、原告は、昭和五五年頃以来現在に至るまで、その販売する別紙目録(一)記載の形態のものと同タイプのトレンチャーについて、少なくともチェーンカバーを備えた状態のものを写真付きの新聞広告、雑誌広告、農業機械カタログ集、自社カタログでTT-二五〇二の型式番号の原告の商品として宣伝広告していること、他方、側面視において三角形に近似の不等辺多角形をなす形状に張架した無端チェンからなる二条の溝掘削体を有するトレンチャーでチェーンカバーを備えていない状態のものについては、雑誌「家の光」昭和五三年三月号(甲第五八号証)、同年七月号(甲第五九号証)にTT-二五〇R二の型式番号で原告の商品として宣伝広告しているが、その形態は別紙目録(一)の形態とは異なり、いずれも原告のOEM製品であると原告が主張する昭和四八年秋には頒布されていた三菱機器販売株式会社のカタログにTT-二五〇の型式番号で記載されているもの、又は、石川島芝浦機械株式会社のカタログにTT-二五〇R二の型式番号で記載されているものの形態に近似していることが認められ、また、撮影者、撮影年月日、原告の商品の写真であることについて争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告が北海道中川郡池田町で撮影した原告の商品であるトレンチャーも別紙目録(一)記載の形態のものにチェーンカバー、鎮圧輪を備えたものであったこと、原告自身、本件訴状においては、別紙目録(一)記載のものにチェーンカバー、補助カバーが備えられたものを原告が昭和五五年頃から現在まで製造販売してきたトレンチャーとしていたことが認められる。

右認定の事実によれば、仮に原告の認識としてはチェーンカバーが付属品であるとしても、実際の取引においては、昭和五五年以降別紙目録(一)記載の形態のものに少なくともチェーンカバーを具備したトレンチャーが完成した原告の商品として流通に置かれ、宣伝広告されており、取引者、需要者においても、そのようなトレンチャーを原告の商品として認識していたもので、前記甲第五八号証、甲第五九号証記載のものは、右時期より前に売られていたモデルチェンジ前のものと推認されるのであり、原告の前記主張は採用することができない。

したがって、別紙目録(一)記載のトレンチャーの形態自体が原告の商品たることを示す表示となっていたものとも、その表示が原告の商品表示として広く認識されていたものとも認めることはできない。

二  次に、被告が被告商品である別紙目録(二)記載の形態をしたトレンチャーを製造販売しているとの点について検討する。

別紙目録(二)記載の形態のものが被告商品の一部であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証、撮影者、撮影年月日、被告の商品の写真であることについて争いのない甲第四号証、乙第二号証によれば、被告が製造販売する商品の形態は別紙目録(三)の写真のとおりのものであり、原告主張の別紙目録(二)記載の状態のものに少なくともチェーンカバーと車輪を備えた形態のものであることが認められる。

被告が別紙目録(二)記載の形態をしたトレンチャーを完成品として販売していることを認めるに足りる証拠はない。

三1  右一及び二認定のとおり、別紙目録(一)記載のトレンチャーの形態自体が原告の商品表示であり、かつ、それが周知であるとも、被告が被告の商品として別紙目録(二)記載の形態のトレンチャーを製造販売しているとも認められないのであるが、原告の主張に鑑み、別紙目録(一)記載のトレンチャーの形態と別紙目録(三)の写真のとおりの被告販売に係るトレンチャーとの形態との類否について検討する。

別紙目録(一)記載の図1及び図2の視点及び別紙目録(三)の写真の視点から観察したトレンチャーの全体的形態は要部であると認められるところ、別紙目録(一)記載のトレンチャーは、チェーンカバー、車輪を備えていないのに対し、別紙目録(三)の写真のトレンチャーは、側面視略三角形に張架された溝掘削体の無端チェンの上側の一辺を大きく覆うチェーンカバー、二対の車輪を具備していることが明らかである。

右のとおりの両商品の要部における形態の明らかな相違は、この種商品の取引者又は需要者において、両商品を異なる商品であると認識するに足りるものと認められる。

以上の認定判断によれば、仮に原告が原告商品として別紙目録(一)記載のトレンチャーを製造販売しており、また、その形態が原告の商品たることを示す表示であるとしても、両商品の形態は、原告が原告商品の形態の特徴として主張する点やその他細部にわたる形態の類否について検討を加えるまでもなく、その要部において類似するものとは認められず、また、両商品を全体的に観察しても類似するものとは認められない。

2  原告は、原告商品の形態と被告商品の形態の共通点と相違点を検討すると、原告商品の形態のうち、溝掘削体の無端チェンを三角形に近似の不等辺多角形にした態様が、従来にない特異な態様を構成していることから、この点を中心とした構成態様が原告商品の形態の要部であり、この無端チェンを三角形に近似の不等辺多角形にした特異な態様が、原告商品を特有の商品表示形態としており、両者の共通点は、原告商品の形態の要部に係り、その共通性は顕著であり、これに対し、両者の差異点は、類否判断の要素として弱いものであるから、被告商品の形態は、原告商品の形態に類似する旨主張する。

しかしながら、前記乙第三号証、乙第四号証、原告の存在及び成立に争いのない乙第五号証ないし乙第七号証、成立に争いのない乙第八号証によれば、昭和四八年頃には、三菱機器販売、石川島芝浦機械、井関農機が、昭和四九年頃には久保田鉄工が、同五二年頃には佐々木農機株式会社が、同五五年頃には株式会社東洋社が、溝掘削体の無端チェンを三角形に近似の不等辺多角形にした態様のトレンチャーを販売していたこと、その内、三菱機器販売、石川島芝浦機械のものは二条の溝掘削体を有するものをも含んでいたことが認められ、右認定の事実によれば、溝掘削体の無端チェンを三角形に近似の不等辺多角形にした点を中心とする構成態様は、この種商品にありふれた形態であって、原告商品に特有の商品形態とも原告商品の形態の要部ともいうことはできない。

なお、原告は、三菱機器販売、石川島芝浦機械、久保田鉄工の販売していたトレンチャーが原告のOEM製品であると主張するが、仮にそのような事実があったとしても、前記のとおり原告のOEM製品ではない複数社のトレンチャーも溝掘削体の無端チェンを前記の態様としているのであり、また、前記乙第三号証ないし乙第五号証によれば、三菱機器販売、石川島芝浦機械、久保田鉄工は、いずれもそのカタログに、各社が販売するトレンチャーの製造元が原告である旨記載しておらず、これを自社製品として宣伝広告しているのであって、取引者、需要者はそれらのトレンチャーを各社の製品と認識するものと推認され、原告の商品と認識するものとは認められないので前記判断を左右するものではない。

四  以上によれば、原告の被告に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 宍戸充 裁判官 櫻林正己)

目録(一)

<省略>

参考図1

<省略>

参考図2

<省略>

目録(二)

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参考図1’

<省略>

参考図2’

<省略>

目録(三)

<省略>

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